4.赤い手帖
美咲は岩崎老人の親戚を探すことにした。出版社の顧客データベースを調べたところ、老人には東京近郊に住む孫の岩崎裕太という人物がいることが分かった。翌日、美咲は裕太の勤務先である建設會社を訪ねた。
裕太は三十代の清潔な男性で、美咲の話を聞くと驚いた表情を浮かべた。「おじいちゃんが手稿を殘していたなんて、聞いたことがないです。店の鍵は確かに僕が持っていますが、中には特に貴重なものがあるとは思っていませんでした」
美咲の説得を聞いて、裕太は「迷亭」へ同行することを同意した。その日の午後、二人は店の戸を開けた。ドアを開けると、古い本の香りが鼻を刺す。美咲はすぐに三番目の本棚へ行き、五番目の段を確認した。そこには、赤い革表紙の手帖が確かに置かれていた。
手帖を開くと、黃ばんだ紙に鋭い筆緻で文字が書かれていた。最初のページには「大正十年 芥川龍之介」という名前が記されている——それは、日本文學史上不朽の名作を殘した作家の名前だった。

