3.手書きの暗号
美咲は帰社後、手稿の詳細を調べた。執筆者の名前は記されていないが、用紙のメーカーロゴから、昭和五十八年(1983年)頃の製品であることが判明した。岩崎老人がその頃「迷亭」を経営していたことを考えると、執筆者は老人か、その知人の可能性が高い。
夕方、同じ編集部の鈴木健太が美咲の機に近づいた。「佐藤さん、昨日の古い原稿用紙、ちょっと見せてもいいか?」鈴木は古書研究の趣味があり、美咲は早速手稿を渡した。鈴木が眼鏡を直して読み進むと、突然「これ、暗号じゃないか?」と言った。
手稿の最後のページには、數字とカタカナが組み合わさった文字列が書かれていた:「3-5 ハ 2-7 キ 1-3 ケ」。美咲はこれを単なるメモだと思っていたが、鈴木は「本棚の段數と位置を示しているのでは? 3-5は三番目の本棚、五番目の段って意味かも」と推測した。
その晩、美咲は再び「迷亭」へ行った。周りは暗くなり、路地裏には誰の姿も見えない。彼女は前の日見た窓から中を覗き込み、三番目の本棚を確認した。五番目の段には、赤いものがちらりと見えた。ただ、戸は閉まっている——どうやって中に入れるのか。


